時効とは
時効とは、ある事実状態が一定期間継続した場合、真実の権利関係に関わらず、その事実状態に即した権利関係を認めようとする制度。時効には、取得時効と消滅時効がある。
取得時効
時効の完成によって、権利の取得を主張すること。他人の物を一定期間占有することにより所有権、または所有権以外の財産権を取得する制度。
長期取得時効
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。(162条1項)
- 悪意または有過失の場合は20年間の占有が必要。
- 所有の意思(自己に所有権を帰属させる意思をもってする占有)をもってする占有を自主占有、その逆を他主占有という。他主占有とは賃借人や地上権者などをいう。
- 平穏、かつ、公然とは、暴行や脅迫など法律上許されない行為をすることなく、秘匿しないこと。
- 他人の物と規定しているが、判例では自己の物の取得時効も認めている。
短期取得時効
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
- 善意かつ無過失の場合、10年間の占有で所有権を取得できる。
- 善意は186条1項にて推定されるが、無過失は推定されないため、所得時効を主張する者が自身で無過失を証明する必要がある。(最判昭46.11.11)
占有の継承
時効の進行中、譲渡などにより占有者が変わった場合、占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。(187条1項)ただし、前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。(187条2項)
また、善意・無過失は最初の占有者の占有開始時点で判定されるため、その後の継承人が悪意または有過失であったとしても、短期取得時効を主張することができる。(最判昭53.3.6)
所有権以外の財産権の取得時効
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年(悪意または有過失の場合)又は10年(善意・無過失の場合)を経過した後、その権利を取得する。(163条)
所有権以外の財産権とは、質権、地上権、永小作権、地役権、土地賃借権など。
債権は原則、取得時効になじまないとされているが、土地賃借権については、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつそれが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき、土地賃借権の時効取得があり得るとされている。(最判昭43.10.8)
消滅時効
時効の完成によって、権利の消滅を主張すること。一定期間権利を行使しないことにより、権利を消滅させる制度。
主観的起算点と時効期間
債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき。(166条1項1号)
客観的起算点と時効期間
権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないとき。(166条1項2号)
人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効
人の生命または身体の侵害による債務不履行の損害賠償請求権の消滅時効については、客観的起算点からの時効期間が20年間に延長される。(167条)
主観的起算点 | 客観的起算点 | |
原則 | 5年 | 10年 |
人の生命または身体の障害による場合 | 5年 | 20年 |
消滅時効の客観的起算点
確定期限付債権 | 期限が到来した時 |
不確定期限付債権 | 期限が到来した時 |
期限の定めのない債権 | 債権が成立した時 |
停止条件付債権 | 条件が成就した時 |
債務不履行による損害賠償請求権 | 本来の債務の履行を請求できる時 |
不当利得返還請求権 | 債権成立時 |
判決で確定した権利の消滅時効
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。(169条1項)
時効の効力
時効の効力は、その起算日(時効期間の最初の日)にさかのぼる。(遡及効【そきゅうこう】:144条)
取得時効 | 消滅時効 |
起算日である占有開始時、又は財産権の行使を開始した時に所有権などが取得されたことになる。 | 起算日である権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)、又は権利を行使することができる時(客観的起算点)に債権が存在しなかったことになる。 |
時効の援用
時効の援用とは、時効の利益を受ける旨を意思表示すること。
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三者取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。(145条)
時効の援用権者
時効の援用が「肯定された例」と「否定された例」は以下のものがあります。
取得時効の場合
援用が肯定された例 | 援用が否定された例 |
被相続人の占有により取得時効が完成した場合において,その共同相続人の1人は,自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。(最判平13.7.1) | 建物賃借人は、建物賃貸人による敷地所有権の取得時効を援用することはできない。(最判昭44.7.15) |
消滅時効の場合
援用が肯定された場合 | 援用が否定された場合 |
| 後順位抵当権者は、先順位抵当権者の被担保債権の消滅時効を援用できない。(最判平11.10.21) |
時効利益の放棄
時効利益の放棄とは、時効完成後の時効の利益を享受しない旨を意思表示すること。
時効の完成前に、時効の利益はあらかじめ放棄することができない。(146条)
時効の完成猶予・更新
時効の完成猶予とは、時効期間を進行させることが妥当ではない一定事由がある場合に、時効の完成を猶予する(完成を遅らせる)ことをいう。
時効の更新とは、時効の進行が一定の事由により無意味になり、新たに(ゼロから)時効が進行を開始すること。
事由 | 完成猶予 | 更新 |
裁判上の請求 | 事由終了まで | 完成猶予後、裁判等により権利が確定した場合更新 |
強制執行 | 事由終了まで | 強制執行が終了した後に債権が残っている場合更新 |
仮差押え・仮処分 | 事由終了から6ヵ月経過まで(149条) | ーーーーーーーーーーーーー |
催告 | 催告から6ヵ月経過まで | ーーーーーーーーーーーーー |
承認 | ーーーーーーーーーーー | 承認(認める)すれば更新 |
協議を行う旨の合意(151条) | 合意があった時から1年経過まで | ーーーーーーーーーーーーー |
未成年・成年被後見人(158条) | 行為能力者になった時、又は法定代理人が就職した時から6ヵ月 | ーーーーーーーーーーーーー |
夫婦間の権利(159条) | 婚姻の解消の時から6ヵ月 | ーーーーーーーーーーーーー |
相続財産(160条) | 相続人が確定した時、管理人が選任された時、又は破産手続開始の決定があった時から6ヵ月 | ーーーーーーーーーーーーー |
天災(161条) | 天災その他、避けることができない事変による障害が消滅した時から3か月 | ーーーーーーーーーーーーー |
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